キャンパスニュース
学生×先生 特別対談 学生インタビュー 競技する経験を、支える力へ。
競技する経験を、支える力へ。
スポーツ理学療法を学ぶということ
けがをしながら競技を続けた経験。思うようにスポーツができなかった悔しさ。
そんな競技者としての経験は、専門的に学ぶことで、今度は誰かを支える力へと変わっていきます。
スポーツ理学療法が担うのは、けがをした選手のリハビリテーションや競技復帰だけではありません。けがの予防やパフォーマンス向上、さらに子どもから高齢者までの健康づくりへ。その専門性は、スポーツを起点に地域や社会へと広がっています。
今回は、水泳と陸上競技に取り組んできた学生2名と、豊橋創造大学・八木先生、横浜市スポーツ医科学センター・鈴川先生が対談。自身のスポーツ経験から、スポーツ理学療法の役割、大学での学び、現場や地域へと広がる可能性まで、4人で語り合いました。
写真左:理学療法学科 学科長 八木幸一教授
写真右:横浜市スポーツ医科学センター 診療部担当部長・スポーツ科学部長
理学療法学科 客員教授 鈴川 仁人先生
① けがをした経験が、学びの入口になった
まずは、二人の学生がこれまで取り組んできたスポーツと、けがの経験から話が始まりました。
若槻さん
小学校から高校まで水泳を続けてきました。中学2年生の後半に腰を痛めてからは、高校まで腰痛を抱えながら競技を続けていました。痛みが出たときはウォーミングアップを多めにしたり、練習の負荷を減らしたり、バタフライからクロールに変えたり。自分なりに工夫しながら、できるだけ練習を休まず続けていました。
吉川さん
私は中学1年生から高校3年生まで陸上競技をしていて、ハードルや短距離、リレーに取り組んでいました。中学3年生のときに左膝をけがして、高校1年生で手術を受け、約1年半競技ができない時期がありました。とても悔しかったのですが、その経験から、自分の身体を知ることや、日頃から身体をケアすることの大切さを学びました。
それぞれ異なる形でけがと向き合ってきた二人。その経験から、話題は「スポーツ理学療法では、選手をどのように支えるのか」へと移っていきます。
写真左:若槻 寛汰(ワカツキ カンタ)さん 理学療法学科 3年生 静岡県立浜松湖東高等学校
写真右:吉川 瑞季(ヨシカワ ミズキ)さん 理学療法学科 3年生 愛知県立天白高等学校
② スポーツ理学療法とは|「治す」だけではない
若槻さん
僕は腰痛があっても、タイムを落としたくない、できるだけ練習を休まず競技を続けたいという気持ちがありました。僕のように、痛みがあっても競技を続けたい選手に対して、スポーツ理学療法ではどのようなサポートができるのでしょうか?
鈴川先生
理学療法には、痛みを直接和らげるための方法もあります。ただ、スポーツ理学療法ではそれだけではなく、身体の機能や動き、競技動作を評価し、「なぜ痛みが生じているのか」「どのようにすれば競技を続けられるのか」を考えていきます。
また、スポーツ理学療法が関わる範囲はとても広いんです。けがをした直後からリハビリテーション、競技復帰、さらにその先のパフォーマンス向上まで、選手の状態や目標に合わせて支えていきます。
吉川さん
私はけがをして手術をした後、理学療法士の方にとてもお世話になりました。けがをしてからの対応だけではなく、けがの「予防」にはどのように関わるのでしょうか?
鈴川先生
例えばハードルや短距離では、身体の使い方やフォームによって、特定の場所に負担がかかり続けることがあります。
身体の機能や動きを評価して、けがにつながる可能性のある要因や身体への負担を把握し、それを改善していく。そうすることで、けがの予防や、一度けがをした後の再発予防にもつなげることができます。
けがを防ぐことも、競技へ戻ることも、その先でもっと良いパフォーマンスを発揮することも、スポーツ理学療法が関わる大切な部分です。
けがを「治す」だけでなく、「防ぐ」「競技に戻る」「さらに高める」まで支える。
二人の経験を入り口に、スポーツ理学療法が持つ幅広い役割が見えてきました。
③ 自分のスポーツ経験が「専門性」に変わる
競技中は、自分の感覚を頼りに身体の状態を判断していたという若槻さん。大学で専門的に身体について学ぶことで、その経験の見え方は変わるのでしょうか。
若槻さん
腰痛が悪化しないように、当時は自分の感覚でストレッチをしたり、練習の負荷を変えたりしていました。大学で身体について学ぶことで、あのときの経験の見方や捉え方も変わってくるのでしょうか?
八木先生
大学では、生理学・解剖学・運動学などを通して、まず身体の構造や動きについて基礎から学びます。
そのうえで、「なぜ腰が痛むのか」「なぜ膝に痛みが出るのか」といったことを、病気やけがと結びつけながら考えていきます。「なぜそうなったのか」が分かることで、「では、どう対処すればいいのか」まで考えられるようになります。
若槻さん
では、実際のスポーツ現場で選手を支えるときにも、大学で学ぶ基礎や「なぜ?」と考える力は大切なんでしょうか?
鈴川先生
とても大切です。生理学や解剖学といった基礎知識は、現場でも欠かせません。
それに加えて、大学では動作分析についても学びます。高度な機器を使うだけではなく、実際に選手の動きを目で見て評価する力も、アスリートを支援するときには重要です。
そして、二人が持っているスポーツ経験も大きな強みになります。自分が競技者として経験してきたことを、専門的な知識と結びつけて「支える側」から見られるようになる。それも、とても大切なことだと思います。
感覚で経験してきたことを、医学的·科学的に捉え直す。
大学での学びによって、競技者として積み重ねてきた経験が、今度は選手を支えるための専門性へと変わっていきます。
④ 豊橋創造大学だからできる学び
では、実際に豊橋創造大学では、スポーツ理学療法をどのように学んでいくのでしょうか。
吉川さん
私は自分がけがをして理学療法士の方に支えてもらった経験から、スポーツ理学療法に興味を持つようになりました。豊橋創造大学では、スポーツ理学療法についてどのように学ぶことができますか?
八木先生
まず、生理学や解剖学、運動学など、身体についての基礎をしっかり学びます。そのうえで、「スポーツ理学療法学」や「スポーツ生理学」など、より専門的な学びへ進んでいきます。
「アダプテッドスポーツ」という科目もあります。障がいのある方だけではなく、子どもや高齢者、病気やけがによって身体機能が低下した方など、一人ひとりに合わせてスポーツに参加するための考え方を学びます。
また、初級パラスポーツ指導員の資格取得につながる学びもあります。競技者だけではなく、さまざまな人のスポーツ参加を支える視点を学べることも、この科目の大切なところです。
他には、横浜市スポーツ医科学センターとも連携していて、実際のスポーツ現場を知る理学療法士から直接学ぶ機会もあります。こうした現場の先生方から学べることも、本学の特長だと思います。
吉川さん
鈴川先生、横浜市スポーツ医科学センターとの連携では、どのようなことを学べるのでしょうか?
鈴川先生
センターには、さまざまな競技やスポーツ現場で活動してきた理学療法士がいます。
選手の身体機能や動きをどのように評価し、その結果をリハビリテーションや競技復帰、けがの予防、パフォーマンス向上につなげるのか。そうした実際のスポーツ医科学の現場で行われている考え方を、学生の皆さんにも伝えていきたいと思っています。
また、大学で学んでいる知識が、実際のスポーツ現場でどのように生かされているのかを知ることも大切です。身体や動きを評価し、科学的に考え、それを実践につなげる。その流れを経験してもらいたいと思っています。
⑤ 大学の外へ。現場に出るからこそ学べること
大学で得た知識を、実際の人やスポーツと結びつけていく。そのための学びは、キャンパスの中だけではありません。
若槻さん
大学の中で学ぶことについて伺いましたが、豊橋創造大学では、大学の外でどんな学びや経験ができますか?
八木先生
理学療法士になるためには臨床実習があります。実際の医療現場で理学療法について学びますし、病院などで働きながらスポーツ選手を支援している理学療法士の活動に触れることもできます。また、学内にはスポーツトレーナーサークルがあり、スポーツを支える活動を経験できます。
地域では、「鈴木亜由子杯 穂の国・豊橋ハーフマラソン」で救護ボランティアを行うほか、地域のスポーツ大会やイベントから協力の依頼があり、学生が参加できる機会もあります。
吉川さん
実際のスポーツ現場で学ぶことで、授業とは違ったどんな力が身につくのでしょうか?
八木先生
現場に出ると、選手がどんな気持ちで競技に取り組んでいるのか、どのような状況でけがが起こるのかを実際に見ることができます。
教室で知識として学ぶだけでは分からないことがあります。実際の人や現場に触れる経験が、とても大切だと思います。
若槻さん
大学で学んだことを実際の現場で経験することで、その後の学びにもつながっていくのでしょうか?
鈴川先生
そうですね。教科書で学んだことを、一人ひとりの患者さんや選手にそのまま当てはめれば答えが出るわけではありません。
大学で学んだことを現場で実践すると、そこで新しい疑問や課題が出てきます。その課題についてまた学び、研究し、もう一度現場に戻していく。そういう繰り返しが大切です。
大学で学ぶ
↓
現場で実践する
↓
そこで生まれた課題を研究する
↓
得られた成果を、再び現場へ
「教育」「研究」「実践」がつながることで、大学で得た知識は、少しずつ現場で使える力へと変わっていきます。
SPECIAL COLUMN
トップアスリートの現場で、理学療法士は何をしている?
話はさらに、鈴川先生が経験してきたトップスポーツの現場へ。
若槻さん
アスリートに帯同する理学療法士は、実際にはどんなことをしているんですか?
鈴川先生
私はオリンピック競技大会やアジア競技大会などの国際総合競技大会に日本代表選手団本部メディカルとして、日本代表選手のサポートに携わってきました。大会では、選手村などで試合前のコンディション調整やテーピング、試合後に生じた身体への不調への対応などを行いました。
競技団体から要請があれば、実際の競技会場へ出ることもあります。
競技によっては、1日に何試合も行うことがあります。そういう場合は、試合と試合の間に身体の状態を確認して、次の試合に向けて身体機能の回復を支えることも、理学療法士の役割です。
選手が持っている力を、その瞬間に発揮できるように支える。
トップアスリートのすぐそばでも、理学療法士の専門性が生かされています。
東京五輪日本代表選手団本部メディカルの理学療法士3名(写真右が鈴川先生)
⑥ スポーツ医科学の力を、競技から地域へ
スポーツ理学療法の専門性は、トップアスリートだけに生かされるものではありません。対談後、先生方に、スポーツと地域とのつながりについてさらに伺いました。
鈴川先生
横浜市スポーツ医科学センターは横浜市の施設ですから、市民の健康づくりや地域への貢献という視点は、日々の業務の中で常に意識しています。
「スポーツ医科学センター」という名称ではありますが、利用するのはトップアスリートだけではありません。子どもから高齢者まで幅広い方が利用しています。医師や理学療法士、管理栄養士、スポーツ科学の専門職などが連携し、診療やリハビリテーション、体力測定、健康づくり、競技力向上、研究などに取り組んでいます。
また、日本理学療法士協会での活動を通して、スポーツ庁の事業にも携わってきました。そこでは、トップアスリートへの支援などスポーツ医科学で培われた知見を、一般の方々の健康づくりにも生かす取り組みを行ってきました。例えば、国民の「ライフパフォーマンス」を高めるための運動プログラム開発にも取り組みました。
スポーツには、競技力を高めることだけではなく、子どもの成長、働く世代の健康づくり、高齢者の介護予防、障がいのある方の社会参加など、さまざまな可能性があります。だからこそ、「競技」「健康」「地域」を別々に考えないことが大切だと思っています。
八木先生
豊橋創造大学でも、学園祭や地域の商業施設などで、学生が体力測定に参加する活動を行っています。
今後は、市のスポーツ担当部署をはじめとした行政機関や地域企業との連携もさらに深めて、大学として支援できる取り組みを増やしていきたいと考えています。
大学には、人を育て、研究する力。
スポーツ医科学の専門機関には、医学・科学に基づいて実践する力。
スポーツ団体には、競技者やスポーツ現場との接点。
そして行政には、それらを地域の仕組みとして、多くの市民へ届ける力があります。
将来的には、大学と専門機関が連携して地域やスポーツの課題を見つけ、研究・実践し、その成果を地域へ還元していく。そうした循環へ発展していくことも期待されます。
人を育てる。地域で実践する。科学的に検証する。そして、その成果を地域へ返す。
一人の競技者を支える力を、地域社会の健康を支える力へ。
スポーツ理学療法の可能性は、さらに広がっています。
⑦ 支えられた経験を、今度は「支える力」へ
対談の終盤では、二人が将来どんな理学療法士になりたいのかについても話を聞きました。
若槻さん
僕は、患者さんの気持ちやペースに寄り添って支えられる理学療法士になりたいです。
腰痛を抱えながら水泳を続けていたとき、部活の仲間や顧問の先生、家族が僕のペースに合わせて支えてくれました。そのおかげで、自分のペースで競技を続けることができました。
自分が支えてもらった経験があるからこそ、今度は僕が、患者さんの気持ちやペースに寄り添いながら支えられる理学療法士を目指したいと思っています。
吉川さん
私は、けがをしてから支えるだけではなく、予防の視点も持った理学療法士になりたいです。
けがで競技ができなかったとき、理学療法士の方と過ごすリハビリの時間が、気持ちを落ち着かせてくれて、前向きに競技復帰を目指す大きな支えになりました。
身体だけでなく気持ちにも寄り添って、選手が安心して競技を続けられるように支えたいと思っています。
八木先生
豊橋創造大学には、身体の基礎からスポーツ理学療法を学び、横浜市スポーツ医科学センターとの連携や臨床実習などを通して、現場につながる経験を積める環境があります。
実際に、スポーツ専門の施設や、スポーツ選手が多く通うクリニックへの就職実績もあります。
大学でさまざまなことを経験して、それを将来、スポーツに関わる仕事へつなげていってほしいと思います。
鈴川先生
皆さんがこれまでスポーツをしてきた経験も、けがをして誰かに支えてもらった経験も、大切な財産です。
ぜひ大学で専門的に学び、今度はその「支えてもらった経験」を、人を「支える力」に変えていってほしいと思います。
AFTER TALK
もっと聞きたい! 学生から鈴川先生へ
予定していた対談が終わった後も、学生二人から鈴川先生への質問は続きました。
「スポーツ理学療法」と「学術·研究」はどうつながる?
若槻さん
鈴川先生は、スポーツ現場で働きながら、学術活動ではどのようなことをされているんですか?
鈴川先生
日本スポーツ理学療法学会では、スポーツ理学療法の発展と、研究で得られた成果を実際のスポーツ現場に生かしていくための活動に取り組んでいます。
学術大会で大会長を務めた際には、「多様性とスポーツ理学療法」をメインテーマに掲げ、パラスポーツや女性アスリートへの支援など、スポーツ理学療法が関わる幅広い課題について議論しました。
スポーツ現場の課題は、理学療法士だけで解決できるものではありません。医師やトレーナー、指導者など、さまざまな専門職と連携しながら、研究で得られた知見を現場に生かし、現場で生まれた課題を研究につなげていくことが大切だと考えています。
若槻さん
僕は今、ゼミで細胞の研究をしているのですが、大学院などで研究するとき、スポーツと直接関係しない分野を研究していても、その経験は生かせるのでしょうか?
鈴川先生
もちろん、動作解析などスポーツ理学療法に直接関係する研究に取り組むことは、大きな強みになります。
でも、研究分野が直接スポーツに関係していなくても、疑問を持ち、科学的に考え、検証する力を身につけることには大きな意味があります。そうした力は、患者さんや選手の状態を評価し、「なぜこうなっているのか」「どうすればより良くできるのか」を考えるときにも生かされます。
スポーツ理学療法では、診療、研究、スポーツ現場での実践をそれぞれ別のものとして考えるのではなく、そこで得た経験や課題をつなげていくことが大切だと思います。
スポーツ分野に進みたい。どうやって自分の道を見つける?
吉川さん
私は将来、スポーツ理学療法に携わりたいと思っています。陸上をやってきたので陸上に関わりたい気持ちもありますが、ほかの競技を見ることや経験することにも興味があります。まだ「スポーツ理学療法に進みたい」というところまでしか決まっていないのですが、そこから自分の専門や進む道をどう見つけていけばよいのでしょうか?
鈴川先生
スポーツ理学療法に進む道は一つではありません。まずは大学で理学療法の基礎をしっかり学び、臨床やスポーツ現場、研究など、さまざまな経験を積むことが大切だと思います。
吉川さんが陸上競技を経験してきたことは、一つの強みになります。競技を経験しているからこそ分かる選手の感覚や気持ちもあります。ただ、スポーツ理学療法に携わると、陸上だけでなく、さまざまな競技、年代、レベルの選手と関わることになります。
最初から自分の専門を一つに決める必要はありません。自分の競技経験を一つの軸にしながら、興味を持ったことに積極的に挑戦し、いろいろな人や競技、現場に触れてみてください。そうした経験を重ねる中で、いろいろな競技や分野にも興味を持って経験を広げていく。そうすることで、自分がどのような選手を支えたいのか、何を専門にしていきたいのかが、少しずつ見えてくると思います。
吉川さん
ありがとうございます。私も、いろいろな経験をしながら自分の道を見つけていきたいです。
競技する経験を、支える力へ。
競技の中で得た経験も、けがと向き合った時間も、専門的に学ぶことで誰かを支える力へと変わっていく。
その力は、一人の選手への支援からスポーツ現場へ。
そして、地域で暮らす人々の健康へと広がっていきます。
豊橋創造大学では、スポーツ理学療法を通して、人と地域の未来を支える理学療法士を育てています。
理学療法学科
https://www.sozo.ac.jp/department/physiotherapy/about
高度リハビリテーション人材育成センター
理学療法学科設立20周年と横浜市スポーツ医科学センターの連携開始を記念して公開講座を開催
https://www.sozo.ac.jp/jinzai/9