教員詳細

詳細ページ(中川博文)

氏名
中川 博文

職位
教授

連絡先
E-mail:h-nakaga@sozo.ac.jp

表題
足底圧分布の可視化と身体の静・動的バランス能力の定量評価に関する研究

主な研究と特徴
 人類が直立2足歩行を行うようになって400万年余りが経過したとされる。それまで体を支えていた上肢は地面から解放され、2本の下肢のみで全身を支えることになった。手は解放され自由になったが、2本足で立ったことで人体重心は高い位置へと移動し、力学的に不安定な状態を強いられることになった。2本足で立位状態を安定的に維持するには両足で囲まれた範囲内(支持基底面)に、体重心と地球の中心を結ぶ体重心線が留まっていることが必要となる。この機能を果たすために、筋骨格系、呼吸循環代謝系、神経感覚系等が発達を遂げ今日の姿に至っている。特に、姿勢維持・調節に必要不可欠のバランス機能は足裏皮膚表面に多く存在する圧覚(メカノレセプター)や内耳の平衡感覚と筋・関節等に存在する固有感覚ならびに視覚等の感覚受容器からの情報が脊髄や脳幹、小脳等を経由して大脳皮質に送られ、これらの情報が最終的には運動中枢で処理されて全身の姿勢維持に関与する骨格筋に運動指令として送りだされることで保たれている。
 立位姿勢は一見じっと静止しているかのように見えるが、足底の圧力分布状態を可視化し観察すると、足底各部位の圧力分布が時々刻々と連続的に変化しており、巧妙な姿勢調節システムの一端を垣間見ることができる。
 老化等により神経や筋骨格系の機能低下または骨折外傷等、様々の要因により姿勢制御系に異常を来す場合があるが、外見上は何ら異常として観察されなくても、実際に足底圧分布を観察すると病気の特徴を明らかにできる場合がある。こうした情報の収集や詳細な分析結果の積み重ねが疾病の早期診断や治療評価ならびにフォローアップ等、足底圧分布情報が臨床に大きく役立つ可能性が示唆される結果となった。
 足底圧分布の解析が進むにつれて、足圧分布情報は病態の評価ばかりではなく、脳卒中片麻痺者等のリハビリ治療に直接役立つこともわかってきた。脳卒中片麻痺者では、麻痺側足底部の圧覚機能が低下し、足裏皮膚表面と床面との接触圧分布を正確に認識することが困難となる。そこで、足底接地部の圧分布状態を足圧分布測定装置により画像情報に変換し、これを直接被験者の視覚に入力しながら立位姿勢や立ち上がり動作等の機能獲得を支援するバイオフィードバック法として用いた。その結果、脳卒中片麻痺や下肢切断のような足底の圧感覚情報が得られにくい患者のリハビリ治療に役立つことがわかった。
 このように、重力が働く環境下で人体が行う立位姿勢、椅子から立ち上がり動作等の複雑な機能は抗重力反応であり、その力学的側面の情報を収集することはそのメカニズム解明において極めて重要である。そのため、足底圧分布装置により得られた力学情報は診断、治療、リハビリテーション等の臨床面にも広く役立つことから、その力学的分析研究に積極的に取り組んできている。

今後の展望
 姿勢の維持・調節に不可欠の身体バランス能力には多くの感覚器官と神経系や筋骨格系が関与していることがこれまでの研究でわかっているが、特に、夜間に転倒事故が多発する高齢者で視覚情報が深く関与しており、その重要性の高いことが明らかになってきた。高齢者は加齢に伴い体性感覚低下を来すが、これを補うかのように視覚への依存度が高まるものと考えられた。
 このことから、高齢者の姿勢調節では視力低下や環境照度の変化等で転倒リスクが大きく変化することが考えられる。こうした高齢者等の転倒予防や対策にはさらに視覚と転倒問題との関係性について詳細な研究解明が必要と考えている。
 さらに,自身の足圧分布画像を直接観察しながら、自ら安定したバランス機能の獲得やその能力向上を目指す視覚情報を利用したバイオフィードバック法は応用分野を拡大しさらなる発展を目指している。
 また、今日、身体バランス能力低下による立位姿勢保持や歩行運動機能低下等の問題は高齢者ばかりではなく、子供においても同様の指摘がなされている。特に、この頃、子供の足に多く見られるようになってきた扁平足や浮き指、外反母趾等の形態異常は履物、生活環境、運動経験不足等が背景要因として指摘されている。これらは子供の生涯にわたる問題等であり、この原因の解明や対策等についても重点課題と捉え研究を積極的に進めている。
 以上のように、姿勢調節や運動機能を果たすうえで、必要不可欠のバランス能力の力学的側面の特徴を定量的に明らかにすることは臨床において不可欠であるが、未だ入り口に過ぎない。さらに深く追究し基礎データを積み上げて行くことが、足底圧分布の臨床応用への可能性を高めることに繋がるものと考えている。

経歴
1986年関東学院大(院)博士課程修了(工学博士)、日本学術振興会特別研究員、国立小児医療研究センター研究員、埼玉医科大学医学部リハビリテーション科助手、(学)日南学園本部企画室長兼看護教育推進室長および日本医科大学医学部小児科非常勤講師を経て現職

所属学会
日本機械学会、日本非破壊検査協会、日本リハビリテーション医学会、日本ナノメディカル学会、理学療法科学学会等

主要論文・著書
【主要論文】
1.    重心動揺計を利用したDown症候群の姿勢制御機能の発達に関する研究,姿勢研究,第10巻,第2号
2.    筋緊張低下症患者における光弾性手法に基づく足圧分布特徴の分析,非破壊検査,第40巻,第8号
3.    光弾性手法を援用した視覚によるバイオフィードバック装置の開発−脳卒中片麻痺患者の立位訓練への応用,日本機械学会論文集,第61巻,582号A
4.    Visual influence on contact pressure of Hemiplegic patients through photoelastic sole image,Archives of Physical Medicine and Rehabilitation,Vol.77
5.    Contact pressure distribution in the supine position in low-birth weight infants analyzed by a photoelastic method, Pediatrics International,Vol.43

【著書】
1.    小児科MOOK37 顔貌からみた小児疾患 金原出版