研究要旨

冨田秀仁 講師

痙直型両麻痺者の予測的姿勢制御に関する研究

主な研究と特徴

痙直型脳性麻痺は脳性麻痺の病型の一つであり、皮質脊髄路の損傷に伴い痙性麻痺を呈します。痙直型両麻痺は痙直型脳性麻痺の一つのタイプで、両側性でかつ上肢よりも下肢の麻痺が強いという特徴を有します。痙直型両麻痺者は、少なくとも何らかの補助具を用いれば立位保持が可能な場合がほとんどです。しかしバランスが悪く立位姿勢が不安定となります。このバランス障害に対し適切な理学療法を行うためには、痙直型両麻痺者のバランス障害の特徴を明らかにすることが不可欠です。

ヒトは立位姿勢を保持した状態で様々な随意運動を行います。実はこの運動自体が立位姿勢を大きく乱す原因となります。例えば立った状態で手を素早く前方に挙上する場合、この運動により身体には前方へ崩そうとする力が加わります。このような力に抗して立位姿勢を保っていられるのは、体幹や下肢の筋(姿勢筋)が適切な活動を示すからです。しかも、これらの姿勢筋は随意運動の主動作筋よりも早く活動し始めます。すなわち、随意運動により生じる姿勢の乱れを予め見越して姿勢がコントロールされているのです。このような姿勢制御様式は予測的姿勢制御と呼ばれ、随意運動を安定して行うためのいわば土台となっています。

しかしながら、痙直型両麻痺者の立位での予測的姿勢制御様式は検討されていませんでした。そのため、私たちの研究グループがこの問題に取り組み、一連の研究を行った結果、以下のような知見を世界で初めて報告してきました。(1)痙直型両麻痺者においても、主動作筋に対する姿勢筋の先行活動は認められる。(2)しかし、麻痺が強い下腿筋の筋活動は遅延する。(3)姿勢筋の活動量が小さい。(4)課題に応じて適切に姿勢筋の活動を調節することが難しい。(5)結果的に、随意運動時の姿勢の乱れが大きくなる。

これらの知見は痙直型両麻痺者のバランス障害を理解する上で重要であり、今後さらに詳細な研究を行っていく必要があると考えています。

今後の展望

今までに明らかにしてきた知見は、痙直型両麻痺者の予測的姿勢制御の特徴の一部に過ぎません。幅広い視点から研究を継続し、痙直型両麻痺者の予測的姿勢制御の全容を明らかにしたいと考えています。さらには、予測的姿勢制御障害が生じる原因の検討や、その障害を改善するための理学療法プログラムの検討を行っていくことで、痙直型両麻痺者に対するリハビリテーションの発展に貢献したいと考えています。

経歴

2000年金沢大学医学部保健学科理学療法学専攻を卒業(同年、理学療法士免許取得)、2000年〜2005年愛知県立心身障害児療育センター第二青い鳥学園(理学療法士)、2002年〜2005年金沢大学大学院医学系研究科環境医科学研究生、2005年金沢大学大学院医学系研究科環境医科学博士課程入学、2008年博士課程修了(博士(医学))、2008年日本学術振興会特別研究員、2008年〜2009年豊橋創造大学リハビリテーション学部理学療法学科講師、2009年〜豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科および健康科学研究科講師

所属学会

Society for Neuroscience, International Society for Posture and Gait Research, 臨床神経生理学会、日本生理人類学会、日本健康行動科学会

主要論文・著書

論文(筆頭著者のみ記載)

  1. 冨田秀仁, 他. 痙直型両麻痺児のかがみ姿勢の規定因子に関する一考察. Health Behav Sci 1:25-8 (2002).
  2. Tomita H, et al. Investigation of a method using visual event-related potentials for evaluation of visuo-spatial attention allocation during standing. Health Behav Sci 6: 27-33 (2007).
  3. Tomita H & Fujiwara K. Effects of allocation of visuo-spatial attention to visual stimuli triggering unilateral arm abduction on anticipatory postural control. Clin Neurophysiol 119: 2086-97 (2008).
  4. Tomita H, et al. Body alignment and postural muscle activity at quiet standing and anteroposterior stability limits in children with spastic diplegic cerebral palsy. Disabil Rehabil 32: 1232-41 (2010).
  5. Tomita H, et al. Anticipatory postural muscle activity associated with bilateral arm flexion while standing in individuals with spastic diplegic cerebral palsy: a pilot study. Neurosci Lett 479: 166-70 (2010).
  6. Tomita H, et al. Deficits in Task-Specific Modulation of Anticipatory Postural Adjustments in Individuals with Spastic Diplegic Cerebral Palsy. J Neurophysiol 105: 2157-68 (2011).
  7. Tomita H, et al. Effects of anticipation certainty on preparatory brain activity and anticipatory postural adjustments associated with voluntary unilateral arm movement while standing. Human Mov Sci (印刷中).

著書

  1. 冨田秀仁, 藤原勝夫. 痙直型両麻痺児の立位姿勢保持トレーニング. 藤原勝夫(編著), 運動・認知機能改善へのアプローチ−子どもと高齢者の健康・体力・脳科学−. 市村出版, 2008年, p.145-156.
  2. 冨田秀仁, 藤原勝夫. 痙直型両麻痺児のかがみ姿勢に対する理学療法. 藤原勝夫(編著), 姿勢制御の神経生理機構. 杏林書院, 2011年, p.243-248.

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